耳鼻咽喉科校医 菊池 和彦

 図のように息を吸う最初の通り道を鼻腔といいます。鼻腔からさらに自然孔という細い筒状のトンネルをぬけると副鼻腔という別の空洞があります。鼻腔は吸った空気の加温、加湿、清浄に大事な役目をはたしています。副鼻腔には次の4つがあります。上頸洞は頬の裏にあり一番大きな空洞です。眼の内側には篩骨洞、前額(ひたい)には前頭洞、鼻腔の奥には蝶形洞があります。副鼻腔には粘液があり自然孔を通して鼻腔へ送り出されます。

<副鼻腔炎とは>
 副鼻腔に炎症がおこったり、自然孔が狭くなったりしたため、膿などが副鼻腔にたまった状態のことをいいます。副鼻腔で炎症をおこしやすいのは最も大きな上頸洞です。


原 因
1. 風邪が持続、反復した場合
2. 鼻のアレルギー
3. 鼻中隔湾曲(鼻中隔が左右に極端に曲がっている状態)
4. 栄養状態
(最近では問題になることはないが極端な偏食は原因になる)
5. 大気汚染(鼻の炎症をおこしやすくする)
6. ストレス(自律神経のバランスをくずし粘膜が腫れやすくなる)
  などです。


鼻茸
 鼻の粘膜の一部が風船のように膨らんで鼻腔内に垂れ下がったものを鼻茸(はなたけ)といいます。放置しておくと次第に大きくなり強い鼻詰まりを訴えるようになります。薬では治せないので大きい鼻茸は切除します。


子供の副鼻腔炎
 子供の副鼻腔はまだ小さいですが、鼻炎が長引いているときは、すでに副鼻腔炎を合併していると考えられます。子供は鼻がつまっても訴えが少ないし、また鼻呼吸を邪魔するアデノイドもおおきかったり、粘膜の抵抗力も弱かったりで、小学校低学年までは副鼻腔炎を繰り返すことが多いようです。高学年になると大半は治っていきますが、放っておいたために高度の副鼻腔炎に変わっていくこともあります。

 鼻の症状(鼻づまり、口呼吸)や風邪の反復、注意力散漫、頭重感などが気になるようだったら受診して下さい。鼻の換気をよくしておくことは大事なことです。また中耳炎の予防のためにも鼻の治療は欠かせません。


症 状
鼻汁
 濃い粘液や膿が特徴で、むしろ「のど」へ下がることが多く、痰のような症状やセキが長く続きます。鼻からのどへさがった分泌物が気管支に吸い込まれることがあり、これが原因のひとつと考えられています。せきや痰が特に夜や朝方に長く続くようなら耳鼻咽喉科専門医にみてもらったらいいでしょう。
鼻づまり
 下鼻甲介、中鼻甲介、などの粘膜の腫れや鼻茸によっておこります。粘膜の腫れが強いと臭いもわからなくなります。また、頬部や鼻根部の鈍痛も診られます。
その他
 頭痛、頭重感、肩こり、眼の疲れ、注意力散漫など鼻以外の症状が多くみられるのも副鼻腔炎の特徴です。学業に影響を及ぼします。
大人で鼻づまりが片方だけで鼻汁に血が混じったり、腐ったような嫌な臭いがする時は副鼻腔悪性腫瘍(がん)の疑いもありますので必ず診てもらいましょう。


治 療
1.鼻の処置
 まず鼻の中に薬液をスプレーします。これにより鼻腔の粘膜の腫れがとれ、自然孔の交通路がひろがり副鼻腔の膿も排出されやすくなります。
2.ネブライザー
 これは霧状になった薬液を自然孔から副鼻腔へ送り込み炎症を静めようという治療です。
3.薬物
 飲み薬には膿を薄めて溶かし、自然孔からの排出をよくする薬を使いますが、炎症が強いときは抗生物質も使います。粘膜の腫れが強い時は腫れを抑える薬も併用します。
4.手術
 前の治療法で改善しない時は手術になります。自然孔が鼻茸などでつまってしまい、取り除く以外に副鼻腔の換気がうまくいかない場合、また強い炎症を度々おこす高度の副鼻腔炎の場合などに手術の適応になります。

 病変の程度にもよりますが、最近では麻酔や技術が発達し、鼻の穴から内視鏡で観察しながら自然孔を拡げ排泄路を確保する手術が普及してきています。

副鼻腔炎は以前に比べて少ない傾向にあります。副鼻腔炎(ちくのう症)即手術と思われがちですが、決してそうではありません。風邪の罹患、反復して副鼻腔炎になっても高度にならないうちになんらかの処置さえしていれば、保存的な治療(手術をしない)で殆ど治ります。