私たちは料理を口にしたとき、みた目、におい、口当たりそして味が総合的に情報が脳に伝わっておいしいと感じます。そのうちでも味覚は重要な役割を担っているのはいうまでもありません。

 味覚には甘み、塩味、うま味、酸味そして苦みがあります。甘みは砂糖をはじめとした糖質を判別して感じる味です。塩味はナトリウムなどのミネラル分を判別して感じる味です。そしてうま味は様々な種類のアミノ酸(グルタミン酸など)を判別して感じる味です。

 つまり、私たちが甘いものや塩味がついたもの、うま味の強いものをおいしいと感じるのは、それは生きるために必要なものだからです。それとは逆に警告という意味が隠されいる味もあります。酸味は水素イオンを判別している味です。そもそもこれは食べ物が腐った味なのです。苦みもまた警告の味です。植物にはアルカロイドなどの毒が含まれることがあるからです。しかし、人は酸味や苦みがあっても腐っていないことや毒がないことを経験的に知るようになってむしろそれを楽しむようになってきました。

 耳鼻咽喉科領域の聴覚、嗅覚、味覚などの感覚は、外界からの情報を収集して私たちを危険から守っています。現在それらの感覚を酷使していろいろな感覚障害をおこしています。その中で味覚は視覚や聴覚とは違って、社会生活に直接支障を及ぼさないため、あまり重要視されていませんでした。しかし、近年の高齢化社会、ストレス、生活様式の変化などから味覚の異常を感じている人は増えてきています。まさに味覚障害は現代病であるといえます。

 味は舌やのどの奥に広がっている味覚のセンサーである味蕾で感じます。味蕾は花のつぼみの形をした微小な器官で、味蕾にある味細胞と呼ばれるものと植物の成分とが鍵と鍵穴のような関係で反応して味を感じる仕組みになっています。この味蕾から神経を介して脳に味が伝えられます。味覚は他の視覚、聴覚、嗅覚に比べて、最も老化しにくいといわれていますが、それでも高齢になると味蕾の数は1/2から1/3に減少し、味が濃くなりやすい原因といわれています。


◎味覚障害の症状
味覚減退
食物の味が薄く感じる
味覚消失
味が全くわからない
自発性異常味覚
何も食べていないのに、いつも苦い味がする
悪味症
食物が何とも表現できないいやな味になる
異味症
ある食べ物や飲み物の味が本来の味と変わった味がする
解離性味覚障害
甘味だけがわからないと訴え、検査でも甘味のみ傷害されている


◎味覚障害の原因
味覚の原因は、不明の点もありますが、多い順に食事、薬物、全身の病気、ストレスがあげられます。



(1)食事の内容による味覚障害
 最近、亜鉛などの微量元素が味覚に重要な関わりを持っていることがわかってきました。亜鉛は必須微量栄養素のひとつです。普通の日本食をちゃんと食べても亜鉛摂取量は諸外国に比べて少ないのに加えて、偏食、朝食抜き、ファーストフードやコンビニの弁当で食事を済ますという食生活が習慣になると亜鉛欠乏症になります。コンビニなど工場生産の食品は清潔さを追求するあまり、本来摂取しなければならない成分まで取り除いてしまい栄養学的には欠陥食なのです。また、激辛好みは味蕾を消滅させる危険性があり、無理なダイエットも味覚障害の原因になります。日本には亜鉛の市販薬はありません。

 亜鉛を多量に含む食品(蠣、魚卵、緑茶、卵黄、海草、玄米、椎茸、ゴマ、小魚、大根やカブの葉など)をとるようにしましょう。


(2)薬剤による味覚傷害
 最近注目されてきたのは薬による味覚障害です。降圧利尿剤・解熱鎮痛消炎剤・抗ヒスタミン剤・ペニシリン系を中心とした抗生物質・制ガン剤・副腎皮質ホルモン剤などの長期運用・併用で尿に多くの亜鉛が排出されるために味覚が障害されることがあります。投与中止で味覚は元に戻りますが、回復に時間がかかることもあるようです。


(3)全身の病気による味覚障害
 溶血性貧血・糖尿病・胃切除・肝不全・その他の肝疾患・ネフローゼ・透析・腫瘍・膠原病・内分泌機能低下などの全身の病気で味覚障害がおこります。また、妊娠や火傷も味覚障害をおこすといわれています。


(4)口腔の病気による味覚障害
 舌の病気である舌炎や舌苔(ぜったい)・口内乾燥症・かぜによるのどの病気でも味覚障害をおこします。また、かぜによる嗅覚障害に続く味覚障害は風味障害として現れることが多いといわれています。


(5)心因性味覚障害
 うつ病・ヒステリー・ストレスなども味覚障害をおこすといわれています。しかし、うつ病は抗不安薬や抗うつ剤を常用していることから薬物による影響も見逃せないという意見もあります。



◎味覚の検査
障害の程度と障害の部位を評価します

味覚ディスク検査
甘味・酸味・塩味・苦味の4味を様々な濃度でしみこませた濾紙を舌の上において、各々の味に対する味覚障害の程度を調べます。
電気味覚計
舌に電極をあて電流の強さを変えて、かすかな電気刺激で金属味の有無を調べます。
舌の部位によって味覚の神経に違いがありますので、この検査によって障害の場所の診断が可能です。中枢の障害が疑われるときはCTスキャンやMRI検査が必要です。
 
文字通り「味気ない生活」にならないためにも豊かな食生活をおくりたいものです。